権太栗毛の記録

*細かい用語解説などをしていません

納得調教 一、とにかく乗ってしまうのではなく、気長に馬を馴らしながら”またげる関係”までもっていく
-馬の素質とあせらないで時間をかけることの大切さ-

北海道和種 セン 栗毛 明け3才


2001.2.4
12月半ばから徒歩調教、丸馬場での調馬索運動をしてきた道産子に初めてまたがった
頭、首の低い姿勢で自然に前進する
 明け2才。権太は北海道からやって来た。とにかく人慣れしていない馬を出すことでは有名な牧場から来た。同じ牧場で生れた2頭と一緒だった。みな”セン”。一頭は、”とも”がすごく強い馬で、輸送中馬運車の脇に張ってあるワイヤーから脚を突き出し、輸送中の場長をあわてさせた。一頭は側対歩だった。
 ”とも”が強い馬は、野生が強すぎてまったく人を受け入れない。来たばかりの頃は、人が近づき少し不規則な動きをすると、馬房の壁を攀じ登ろうとするような馬だった。どたんばたんガリガリガリ。2ヶ月程、自分はこんなに穏やかで気の長い人間であったのかと、たまげるくらいやさしく馴らした。うまく人と折り合えば、どんなにかすごいジャンピング・ホースになるだろう、と期待したからである。結局、人にさわらせるようにはなったものの、過敏すぎて、すぐに”とも”を落とし、後肢を前に送り込むような体勢をとる。音で示せば、ざざざ!(すばやく)という感じである。こういう馬はいくら能力が高くても危なくてダメだ。
 側対歩は乗馬運動には不適当である。
 よって、2頭は遠野に、権太だけが残った。熊谷直実の愛馬に因んで権太栗毛と名づけた。流鏑馬に使えればという思いも込めた。
 権太も、”とも”が強い。馬房には頭の高さまでしっかりと鉄棒を渡した。そうでないと飛び出してしまう。自分の肘の高さにある二本目の馬栓棒に前肢の蹄をかけ、あたりを眺めるポーズが得意であった。和種には珍しいきれいな栗毛である。
 権ちゃんのいいところは、恐がりだが、好奇心一杯で、大きな目で相手をじっと見つめるところ。利発そうな印象。こんな馬は人に慣れる。なぜか、はじめから、驚いた様子を見せても耳を絞らない馬だった。人に対して素直な興味をしめす感じである。

 調教の第一段階:約2ヶ月(2000.秋から)
 とにかくビクビクしている。”ふすま”やにんじんを持って馬房の前にたち、声で愛撫しながら、向こうから近づいてくるのを待った。人は体を屈め、馬より目線を高くしないようにする。毎日続けた。馬房の前を通る時は、声をかけてやり、近づいてくれば、そっと鼻面を愛撫する。そのうち人が通りかかるとかまってほしいように、いつも顔を出してくるようになった。こうなってくる馬は、いくら野生馬でもなんとかなるのである。

 調教の第二段階:約1ヶ月半(2000.12半ばから2001.1月一杯)
 一、初めて馬房から出す(1日目-1)
   基本に忠実に、絶えず穏やかに話しかけながら首に引き綱をかけ、そうっとそうっと無口を着けた。とても緊張している。私のほんの僅かな気配にも反応して肌がピクピクする。パニックになりはしないが、引っぱっても外に出ようとしない。脚を軽く突っ張って立ちすくんでいる。しばらく粘ったが、馬の気持ちをこじらしてしまうといけないので、後ろから追ってくれる手伝いを呼びに行った。無口は着けたままで、高い位置の鉄棒をかけ、そこに引き綱を結んだ。2、3分後に助っ人を連れて戻るとそのままの位置でじっとしていた。助手は馬房の中に入って、「蹴らないでくれよ」とかつぶやきながら、馬の尻をそっと押す、私が引き綱を引くと、簡単に馬房の外に出た。期が熟していた。
 二、最初の引き運動(1日目-2)
   引き馬の基本は、馬の右肩の脇に添い、馬と同じスピードで歩くことである。馬の歩くスピードが遅ければ励まし、速すぎれば引き綱で抑えたり、声で落ち着かせる。新馬の時は何事も基本が大事である。馬房から出ると権太はおそるおそるではあるが、私とともに歩き出した。長く馬房の中にいたので、肢の出し方を忘れてしまって、妙な歩き方をしていたが、直に勘をとりもどした。全身でまわりの状況を感じとろうとする様子で慎重に歩く。無理に引っ張るのではなく、自分の意志で前進させるようにした。何かに気をとられて立ち止まった時は、しばらくそのまま観察させておく。それが何であるか言葉でおしえてやり、何でもない、恐くないものであると言いながら促し、軽く引き綱を緊張させてまた進む。牧場の様子に慣れさせるのが最も早い時期の目的の一つである。
 20mくらい歩いたあたりで尻尾を持ち上げて、「やるな」と思ったとたんに、その場で1mくらい飛び上がった。手袋は必需品。反抗というより外に出られてうれしい!という気持ちの表現のように感じた。”ほうほう”と声をかけてやりマエガミとヒタイをなでてやるとしずまった。まだ、まわりの様子がわからず、おっかなびっくりなのでこの程度だが、慣れると、のんびり引き馬なんかしていたら、うれしすぎて度を越した高揚感で跳ね回り、引っ張りまわされる恐れがあるからご用心。さっさとパドックまで連れていって、しばらく存分にはしゃがせてやった方がいい。
 三、人間に注意を向けさせる(1日目-3)
   はじめは、自分をコントロールしている人間より、まわりのすべての物、音に反応して動く。引き綱を引く人間に注意を向けさせる。権太のヒジの上あたりを親指で突き、人に注意を向けさせる。突いては声で愛撫しながらヒタイをなでマエガミを梳いてやる。権太の左、右両方で繰り返し同じことをする。人に注意を向けると誉められる、誉められるのだから正しいことだと、馬にわからせるのである。ヒジの上あたりを突いては愛撫し、歩き、突いては、愛撫し、引き馬をする。左右繰り返した。馬場を2、3週した。もちろん何かに気をとられてじっと耳を向けている時は、待ってやり、恐いものでないことをおしえてあげながらだ。
 四、調馬索(1日目-4)
   丸馬場に入れる。入り口でほんの少し躊躇したが、「だいじょうぶだよ、こわくないよ」と言いながら軽く引くとついて来た。すごく緊張している。まだ、まわりが恐すぎて、反抗する余裕がない。この辺が馬の素質を見るのに重要だと思う。恐怖でパニックになってしまう馬もいる。権太の場合は、無駄な反抗をせず、かえって全身でまわりの様子を感じ取ろうとしているように見えた。我慢している。我慢することができる。我慢して理解しようとする。そんな馬はいい。丸馬場の中で両手前、2,3周引き馬をし、時々立ち止まっては、人間に注意を向けさせ(ヒジの上を突き)、愛撫をした。恐さに耐えきれずに、ばたばたっとした瞬間に引き綱を詰め、突く、愛撫する。常に人間に注意を引き寄せるようにする。長鞭で、引き綱(始めから長めのものを使った)のまま、調馬索運動に入る。僅かに最初あわてた感じになったが、すぐ駈足でまわりはじめた。引き綱を使ったのは、うまくいかなかった場合、すぐ手元に引き寄せるためである。手前を変えるときにトモを少し人に向けていた。首を下げ、舌を出し、口をくちゅくちゅしはじめたところで切り上げる。これが、もうやめてください、わたしは、あなたに従いますのポーズである。馬同士の合図でもある。気の小さい馬は、いきなり下痢をしたりするが、権太は意外に肝が太い。実に久しぶりに動いて腸の働きが活発化したボロをした。手元に引き寄せる。いじめられたと思っているから、自分では寄って来ない。ヒタイをなで、前髪を梳いて、よく愛撫してやりニンジンをあげた。2本くらいあげた。好物で機嫌をとることも大切。
 五、手入れ(1日目-5)
   丸馬場から上げる。今度は馬の左肩脇に添って引き馬をする。乗馬の調教である。右でも左でも引いて歩けなければ困る。馬は習慣性が強いから左側ばかり慣れさせると右からの接近をきらうようになる。左側が崖だったらどうします?
 馬繋場につなぎ、ブラシをかけ裏堀をする。 とにかく話しかけながら。びくびくだが、我慢できた。オビミチ、ハラは、雲子玉(冬毛にボロがからまって団子がぶる下がったような状態)がブラシで引っ張られて痛いのでいやがる。いやがることはしない。意外に蹄は従順に上げる。さっと自然に、苦しくないくらい低くあげて、手早く泥を掻き出す。十分きれいにできなくていい。すこしずつ慣れてくる。蹄叉側溝の奥の方は嫌がる。一日目にしては出来過ぎな感じだった。

  週一回の調教
  あわてないのが今回の調教。隔週で、土日の週2日、日曜日のみの週1日、権太を馬房から出す。餌は朝、晩2回。ヘイキュウブ10個にふすま一合、塩、カルシウム小匙一杯ずつ。栄養価の低い乾燥を一塊、その度に投げておいた。一週間、馬房で遊んでいるのだから、この程度で十分。


H13(2001). 6.1 信州戸隠牧場に放牧
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